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『THE ハプスブルク』イタリア絵画編
前回に引き続き、京都国立博物館で開催中の『THE ハプスブルク展』(会期 2010年1月6日〜3月14日)について。今回はイタリア絵画について、書きたいと思います。出展されている作家については、ほとんどが一度は取り上げたことがあるので、それぞれリンクを張ります。ご興味のある方はどうぞ。

ハプスブルク家に支配された歴史のある国々にイタリアも含まれていますから、歴代の君主は主に北イタリアの、とりわけ16世紀ヴェネツィア派の絵画を好んで収集したようです。

イタリア絵画のセクションは、ラファエッロの【若い男の肖像】から始まります。まだ瑞々しさの残る初期の頃の肖像画。映画『華麗なる激情』に登場するラファエッロがこんな感じだったためか、私のイメージするラファエッロにそのまま重なるのですが、おそらく別の人物(詩人ピエトロ・ベンボあるいは他の人文学者)だそうです。

そして、色彩豊かなラファエッロから、ぐっと落ち着いて写実的なジョルジョーネへ。


ジョルジョーネ【矢を持った少年】
ジョルジョーネ【矢を持った少年】
背景に溶け込んで、なんだか目を離すと今にも消えてしまいそうな少年像。神話なのか、宗教画なのか、あるいは肖像画なのか?諸説ありますが、中性的な柔らかな美しさは、なんとも神秘的です。でも好みでいうと、前回アップした【フランチェスコ・マリア・デッラ・ローヴェレの肖像】の方が好きなのですが。


ロレンツォ・ロット【聖母子と聖カタリナ、聖トマス】
ロレンツォ・ロット【聖母子と聖カタリナ、聖トマス】
やっぱり素敵です、ロレンツォ・ロット。彼の率直な線と鮮やかな色彩、そしてどこか意味深なその作風に惹かれるのですが、この聖会話は特に色彩に優れていて、空色の衣装をまとった聖母の存在感はまさに堂々たるもの。登場人物がまた皆良い表情をしているのです。


今回はうれしいことに、ティツィアーノとその工房作から4点。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ【イル・ブラーヴォ】
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ【イル・ブラーヴォ】
まず、この題名におやっ?と。”イル・ブラーヴォ”ってなんやろ?
帰ってティツィアーノ本を見ると”刺客”だそうです。なんとも緊迫感のある場面ですが、若者が葡萄の葉冠を被っているところが、若干気の抜けるところかも。この冠から彼は酒の神バッカスという説もあるそうです。それにしても、この黒光りした鎧の表現はさすが見事。

もう一枚ティツィアーノを。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ【聖母子と聖パウロ】
とても艶かしい聖母です。少し【ウルビーノのヴィーナス】に似ているかも。同行者が左から観るのと、右から観るのとでは印象が違うというので、そうして観てみたら確かに艶っぽい表情が敬虔な表情に変わるような。よろしければお試しください。

ジョヴァンニ・バッティスタ・モローニ【ヤコポ・コンタリーニの肖像】
ジョヴァンニ・バッティスタ・モローニ【ヤコポ・コンタリーニの肖像】

ティツィアーノの肖像画は写実的であると共に、その社会的地位を際立たせ、内面を描きだすという並外れた技術を備えています。それはひとえに、彼がその対象を極めて客観的に観て、それを実際以上に克明に表現できたということ。
そして面白い話に、もし素顔の肖像画を描いてもらいたければ、ティツィアーノはこのベルガモ人のジョヴァンニ・バッティスタ・モローニを推薦したということ。ということは、モローニはティツィアーノほど人間の内面を暴くことなく、より見たままに写実的に描いたということ。といっても、彼が技術的に劣っていたと言うわけではありません。この絵は、本当に今にも動き出しそうなほどリアルで、かつ魅力的でもあります。


パリス・ボルドン【アレゴリー:マルス、ヴィーナス、ヴィクトリア、キューピッド】
華やかなこの寓意画。自然豊かに、神々も生き生きと描かれています。でもヴィーナスの腕っ節の太さに思わず発した私の言葉、「このヴィーナス、えらい逞しいわぁ」に、隣のカップルも「ほんまやぁ」と。ちょっと笑った瞬間。


ルーカ・ジョルダーノ【物乞い】
ルーカ・ジョルダーノ【物乞い】
このタイトルは正確ではありません。ただ彼が手にするフィアスコの瓶、ここに書かれている”Dal Paiostrosi”は図録によると「三文文士」を意味するそうです。私がスペイン人画家で最も愛好するリベラの弟子である彼の作品は、解剖学的にも忠実な描写で、観る者に迫ってきます。是非、実物を観て、彼の描く瞳の力を感じて頂きたいです。

また、イタリア人の中からも宮廷画家としてウィーンで活躍した人物がいます。
まず思い浮かぶのは、ルドルフ二世に使えたジュゼッペ・アルチンボルド。
そしてこの美術展に出展された、皇帝レオポルト1世に仕えたグイド・カニャッチがいます。

グイド・カニャッチ【クレオパトラの自害】
グイド・カニャッチ【クレオパトラの自害
彼はクレイパトラの絵を好んで、あるいは注文を受けて描いています。そのヴァリエーション豊かな中でも、今回の一枚は親しみやすい作品。何を隠そう、我が家に唯一かけられている絵は彼の【クレオパトラ】だったりします。

この『THE ハプスブルク』に出展された27点のイタリア絵画。
ここに書いた以外にも、ティントレットやヴェロネーゼなど素晴らしい作品があります。そして、スペイン・ドイツ・フランドル絵画へ。次回はこのセクションに触れてみたいと思います。


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| Ayumi | イタリア美術 | comments(9) | - |
Comment
2010/02/12 11:09 PM posted by: りゅうBB
充実した展覧会だったのですね。
行かなくて、残念でした。
何となく、混んだ日本の美術館よりも、イタリアに行った時に観ましょ!と思ってしまうので…。
ジョルジョーネの作品は、見ようによっては女性がモデル?と思ってしまいます。絵画って、男性のつもりでも、女性よりも美しいモデルだったりして、思わず魅入ってしまう時があります。
また、ロレット・ロットの絵は、本当に色彩が豊ですね。
ティツィアーノの絵は映画の一幕の様にみえます。『刺客』後ろに隠された凶器がリアルです。鎧も堅さが表現されていて見事ですね。
今日の記事、面白く読みました。
2010/02/13 12:58 AM posted by: akira
(まずは、BB様のコメントとってもステキでした。お酒が入っているから?
いないから?どちらでも納得ですワン♪)

私もハプスブルク展の前売りを用意して楽しみにしているのですが、ヤボ用
に追われて機会を逃し未だに行ってません。
でも、おかげさまでAyumiさんの名ガイドで鑑賞した気分に浸っております。
続きも本当に楽しみですが、コレクションはさすがに素晴らしいですね。
実際に接したときAyumiさんの解説のおかげで楽しみが倍増しそうです!(^^)!
2010/02/13 8:21 PM posted by: BB
akira様
ど、ど、どこが素敵なコメントだったのでしょうか?(オロオロオロ) はずかし〜〜っす。
Ayumi様
言い忘れましたが、この『物乞い』のおじさまの胸のあばら骨はBBの様で、ドッキとしました。
なぁ〜〜んて書いたら、akira様に「品格を落としましたね。」とか言われてしまうでしょうか?(オロオロオロオロ…)
2010/02/13 11:42 PM posted by: Ayumi
BB様、こんばんは。

確かに、日本の特別展は混んでいますから、少し億劫になりますね。
といっても、関西はさほどの混雑ではないのですが。
ジョルジョーネはやはり素晴らしいです。彼の2作品が観られただけでも、今回行った価値がありました。欲を言えば、コレッジョも来て欲しかったなぁ、なんて。

akiraさんのコメントも素敵ですねぇ。
実はBB様でなく、akiraさんの方が酔いコメだったりして〜〜??
そして、BB様のあばらが!?次回の訪伊では美味しいイタリア料理をたんと召し上がって下さ〜い!


akiraさん、こんばんは。

お楽しみ頂けましたら幸いです。
でも、私のは解説ではなくあくまで感想なので、その点ご了承下さいませ〜
そして是非美術館に足を運んで頂いて、実物をご覧になっていただきたいです。さすがハプスブルグ、見事なイタリア絵画コレクションですから、またイタリアを懐かしく感じるかもしれませんね。そうそう、akiraさんの創作活動の良い刺激になるかもしれませんね、是非に!
2010/02/14 1:52 AM posted by: akira
どこかの誰かさん?のように私もオロオロしてしまいそうですが
酔いコメより良い米を毎日食べてますヨ(^^♪
BB様は音楽のみならずコメントの間奏♪もお上手ですね。
私の乾燥した心にも響きます(*^^)
解説ならぬAyumiさんの素敵な「感想」こそ創作の刺激になりそうですよ!
ついでに絵の感想を一つ。
手の表現は顔の表情とともに、一番心を表わしているといつも思います。
例えばゴヤは指一本につき幾らという別料金を定めていたという面白い
話を聞いたことがありますが、意外と難しいのが手の表現ですよね。
でも優れた作品はどれも手に表情があり感心します♪
2010/02/14 8:00 AM posted by: cucciola
Ayumiさま、

こんばんは。
またしても初めてお目にかかる絵画ばかりが登場で、いったいイタリアの芸術家たちのお宝はどれだけ海外に流れちゃったんだろう、と改めて感じます。
今回の一番のお気に入りは、ティツィアーノの「刺客」です。刺客自身の顔が見えないのがまたにくい!この緊迫感は素敵です。
モローニという作家も初めて知りましたが、これまた現実感たっぷりの作風ですね。太鼓腹も苦にならないくらい格調高い作品ですね。これらが今全部日本にあるなんて!
これを機会に日本でのイタリア美術への興味がますます深まるといいですね!
2010/02/14 6:08 PM posted by: shinkai
こんにちは!
ああ、このジョルジョーネの人物もやはり憂愁に満ちた目ですねぇ。 多分この肌の見える衣装が気になるのでしょうね。 展覧会で鎧をつけた(この鎧がまた黒光りの素敵なもので!)若い騎士がふっと物思いにふける絵があり、大変素晴らしかったですから。

そうそう、このBravoという言葉、私も知らなかったです。 今、マンゾーニの許婚者をダイジェスト版で読んでいますが、それに出てくるのですよ、最初に。
ここでは完全に刺客ですが、ほら、やくざ一家のごろつき、脅しに行ったり、その手の使い走りをする、みたいなのを指すようですよ。

2010/02/15 8:21 PM posted by: akira
最近知った情報ですが「ハプスブルク帝国の栄光 華麗なるオーストラリア大宮殿展」(3/2〜28まで)というのもあるようですね。東京富士美術館企画で関西国際文化センター(神戸市三宮)ですが、こちらは宮殿の家財や絵画・工芸・食器・宝飾などが中心のようです。
今年は日本とオーストリア・ハンガリー二重帝国(当時)が国交を結んで140年の節目にあたるということで、宝塚でも「ハプスブルク家の宝剣」という公演をしたり、いろいろプスブルク家ゆかりの名品の美術展などが企画されていますね。
資料を参考すると、3世紀に勃興し、20世紀初頭まで君臨したハプスブルク家は、神聖ローマ皇帝も数多く輩出した名門王家として知られていますが、歴代の王たちは、優れた審美眼と熱意をもって芸術保護に乗り出し、ヨーロッパ美術の真髄を伝える質の高いコレクションを形成したのは凄いことだと思います。
デューラーを庇護したマクシミリアン1世、ティツィアーノを召し抱えたカール5世、多数の宮廷画家を擁したルドルフ2世、ベラスケスを側近としても重用したフェリペ4世、1400点にものぼる絵画を集めたネーデルラント総督レオポルト・ヴィルヘルム大公等々、名だたる巨匠と名画の数々に魅了された王たちの成果は素晴らしい偉業でもあると思います。
女帝マリア・テレジアとその息子ヨーゼフ2世は、作品を宮殿に移し一般公開を始めたり。その膨大なコレクションは、ハプスブルク家の威光を示す豪華絢爛さだけでなく、歴史的意義や学術的な質の高さという点でも、特筆に値するものあると思いますが、私もハプスブルク友好協会の(ちょっとわけのわからない?)宮廷芸術会員に推薦で所属してハプスブルク家の紋章の入った記念の盾が以前オーストリアの方から届きましたが、機会あるごとにコレクションも鑑賞して一点でも多く楽しみたいものです♪
2010/02/17 12:09 AM posted by: Ayumi
akiraさん、こんばんは。

今回も詳細な情報をありがとうございます。
神戸でも展覧会ですか、こちらも是非観てみたいです。やはり絵画が一番好きなのですが、今回の展覧会は工芸品も大変見事で、本当に目の保養になりましたから。ジュエリーなどもそれは見事でしょうね。

そうそう、確かに手は顔の表情と同じくらい、心を表わしますね。特にイタリア人は。ゴヤのお話がまた面白い!それなら手いっぱい描いちゃうヮ、なんて。


cucciolaさん、こんばんは!

ティツィアーノの「刺客」、気に入っていただけましたか!なんだか嬉しいです。やはりさすがの構図ですよね。
モローニは肖像画家として特に優れていて、多くの作品を残しているのです。どちらかというと、中産階級の人々を主に描いていますが、肖像画のお好きなcucciolaさんには是非ご覧になって頂きたい画家です。

日本人は私を含め本当に美術鑑賞が好きですから、この展覧会もなかなかの人気のようです。こうして少しずつでも、イタリア以外にあるイタリア絵画を観られると嬉しいですね。


shinkaiさん、こんばんは!

なるほどマンゾーニの『許婚者』の冒頭の悪漢が”Bravo”ですか。納得です。それにしても。あの小説はさすが面白いですね、一気に読みました(もちろん日本語訳ですが)実在の枢機卿や建設中のミラノ大聖堂などが登場するので、余計に。また読みたくなりました。

このジョルジョーネの少年、ダ・ヴィンチを髣髴とさせる空気感ですが、顔つきがこちらのほうが日本人にはとっつきやすいからか、妙に安心して観賞できました。不思議ですね。
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